書評 : 「洗脳選挙」 三浦 博史著 光文社

伊佐  陽一(通信教育部事務室)

 たった30秒で世論を変えたというテレビ・コマーシャルがある。

 

 少女が花弁を使って「1枚、2枚・・」と花占いをしている。少女の声は、次第に大人がカウントダウンする声に変わり、画面には轟音とともにキノコ雲が投影される。最後にナレーターが「私たちは互いに愛し合わなければ、死を迎えることになるでしょう」と締めくくるこのCMは、

後に“デイジー”と名付けられ、伝説のCMとして語られることとなる。

 

 1964年のアメリカ大統領選挙の際、共和党は「核抑止論」を訴え選挙を有利に進めていたが、対立する民主党は核戦争に不安を抱く国民感情に焦点を定め、高視聴率の映画番組の合間に一度だけ“デイジー”を流した。このCMの絶大な効果もあって、民主党は圧倒的な勝利を収めたという。

 

 著者の三浦博史氏は神奈川・埼玉・鹿児島・新潟県の知事選挙を勝利に導いた選挙コンサルタントでもあり、本書では上記の“デイジー”CMのような例をあげながら、日本やアメリカの選挙における、政党の選挙活動や投票者の行動の特徴を分析し、選挙に勝利するための様々な戦術を述べている。

 

中でも著者自らタイトルでもある「洗脳選挙」という言葉を「正直言って嫌な言葉だ」と前置きしながらも、選挙戦中に単純なメッセージを繰り返し、継続的に刷り込むことも洗脳のための一手段であると指摘し、投票者が知らず知らずに浴びている「洗脳」の効果を主張している。

そして「あなたが投票した一票は、本当にあなたの意志だったのか?」との警鐘を投げかけている。

 

 本年は統一地方選挙と参議院選挙が行われる。

安倍体制の自民党、逆転を狙う小沢民主党、神崎代表から太田代表の新体制になった公明党。

「駄目な候補者ほど、得てして洗脳に秀でている」と著者は警告しているが、真剣かつ冷静に候補者を見定める目が国民には求められるのではないだろうか。