99.9%は仮説』竹内薫著 光文社新書

赤石澤 敏和(教務部教務第1課) 

 

 私たちの身の回りで起こる様々な事象は、これまで一体何パーセントほど科学的に証明されてきたのだろうか?万有引力や地動説など、いまや「常識」ともいえるこれらの発見を疑う人は、現代社会には「ほとんど」いない。かつて哲学のひとつとされていた科学は、やがて物理学や化学、心理学というように専門分科が進み、人間の営みのあらゆる側面を科学的に解き明かしてきた。東京大学で物理学を専攻してきた科学作家の竹内薫氏は、それでもなお「世の中はすべて仮説にすぎない」と力説する。本著『99.9%は仮説』は「最近頭が固くなってきたなぁ」と感じる読者に、「思い込みで判断しないための考え方」を教えてくれる。

 

 太陽系の惑星といえば「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」の9つというのが一般常識だった。しかし先日、冥王星が惑星から格下げされて話題を呼んだ。その決議が国際天文学会でなされる以前に、筆者は本著の中で「冥王星=惑星」という定説に疑問を投げかけている。私たちが今あたりまえのように信じている「常識」や「定説」といったものが、いつかは覆される「可能性」を秘めていることを感じさせてくれるよいきっかけとなった。

 

 私は南米に留学中、授業中に喫煙を始めた学生に非常に驚かされたのを覚えている。しかし講義をしている教授までもがタバコをふかし始めたのを見て、日本での「常識」がここでは通用しないことを知った。しかも「マテ」と呼ばれるカフェインの強いお茶が、まるであたりまえのように回し飲みされ、3時間ストレートの授業にもかかわらず学生は真剣に授業に臨んでいた。

 

 人は知らず知らずのうちに「仮説」の中で生きていると筆者は説く。大学で生活する私たちも例外ではないだろう。そもそも大学に入学試験は必要なのか?授業時間はなぜ90分なのか?時間割は決まっていないといけないのか?教員はなぜ試験を監督する必要があるのか?大学をかたち作っている様々な常識は、よい教育・学習環境の「仮説」にすぎないのかもしれない。

 

「絶対」や「あたりまえ」という言葉を多用することに慣れると、気付かぬ間にその他の可能性を排除することになり、限られた視点からしか物事を見られなくなってしまう。激しく変化を続ける現代社会で生き残っていくためには、柔軟な発想で常識を打ち破っていかなくてはいけない。そのために不可欠な「多角的なものの見方」や「批判的思考力」を身につける一助として、本著は何らかの示唆を与えてくれるだろう。