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読書力と読解力 石丸 憲一(教育学部准教授) 2000年の少し前に端を発した学力低下論争は、PISA2003(OECD学習到達度調査)の結果が公表されたことによって国民全体に意識されることとなった。そして今、読解力が低下していることが学力低下の最大の原因だという雰囲気が日本中に漂っている。このことは長年国語教員であった私にとって、今までしてきたことを振り返る大きなきっかけとなっている。 国語の授業では、一般に同じ読むことであっても、深みを目指す読みは読解*、広がりを目指す読みは読書と考えられている。そして、読解の授業の後に発展として読書というように進められることが多い。では、読解をする力=読解力がなければ読書はできない、つまり読解力は読書力の前提となっているのだろうか。そんなことはない、私は読解力に自信はないけれど毎日読書していると思う方も多いだろう。確かにその通りであって、読解力は万全でなくとも読書はできる。自分の読解力に合った読書をすればよいのだから。 読書力を支える力の中心は読解力である。しかし、読書をするためにはそれ以上に重要な力がある。一つは、読書しようとする力、つまり読書への関心・意欲である。優れた読解力の持ち主でも読書に関心を持たない人、自ら読もうとする意欲のない人は読書しない。そしてもう一つ、読書を心から楽しむことのできる力、(こう言い換えることが適当かどうか、それは現在の筆者の課題でもあるが)鑑賞力である。人は、書物に書かれている文字の意味を理解するためだけに読書するのではない。読書により感動し、読書することが楽しくてたまらないから読書するのである。そして、また読書しようという関心・意欲が大きくなり、意味をつかみ、自分だけの読書の喜びを感じる。 読書生活はこの繰り返しであり、繰り返し読書する中で読解力も高まっていく(と思われる)。読解と読書は「読み」の両輪であると言われるゆえんである。そして、どちらが未熟でも「由緒正しい読書家」とは言えない。 創価大学生の皆さんの多くは読書好きのようである。どうしたら読解力を身に付けることができるのですかと尋ねられることも多い。読解力を身に付ける方法は今、国語科教育の研究分野で最もホットな話題であり、未解決の研究課題ではあるが、学生の皆さんには喫緊*の問題でもあろうから、ヒントになりそうなことを二つ提示しておきたい。 ①今読んでいる部分が全体にどう影響するのかを考えながら読もう。小説ならば、それがメタファー*を読み取り、自分のものとするテクスト*の意味を強化することになる。論文やレポートなどの文章であれば、部分が全体のどの位置にあるのかを押さえることになる。プロットもディテールも同じように大切だということに気付いていく。 ②言葉の辞書上の意味と文脈上の意味は必ずしも一致しないが、辞書的意味が分からなければお話にならない。分からない言葉が出てきたらたまには辞書を引こう。そして、辞書上の意味と文脈上の意味の差異を感じよう。そこに大きな隔たりを感じるようになったら、読解力が身に付いてきた証拠である。手始めに、この文章中の*印の言葉の読みや意味を調べてみるとよい。 幸いにも創価大では、全学読書運動の一環で感想文や書評を書くことをお薦めしている。特に書評を書くことは、テクストの主観的読みと客観的読みを一体化するよい手だてである。ぜひチャレンジしていただきたい。 |
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