図書館とCETL:ライオンとネズミのコラボレーション

関田 一彦(教育・学習活動支援センター長)

 

創価大学の中央図書館は、開館30年にして大学図書館としての充実度は相当なものである。特に近年、様々なWebサービスを新展開し、多くの大学の模範となっている。中でも白眉はSBWSoka Book Wave)運動である。活字文化振興という社会的意義も大きいが、まずは「読む」ことを苦にしない学生を育てるという、大学にとって極めて重要な取り組みである。

現状のSBWは二段階になっている。ジャンルや難易度を問わずとにかく20冊以上読み、その証に感想文を書くという第一段階。さらに感想文から書評文へとより深い読解と高度な文章表現が期待される第二段階。この段階に進むと読書力認定の審査を受けることができる。こうした読書力向上運動は、おそらくその規模と仕組みにおいて日本一であろう。

 

言わずもがな、図書館は大学の心臓である。人類の英知の集積所であり、その質と量が大学の創造性・生産性を左右する。図書館を見れば、その大学のレベルが窺えるとさえ言われる。ただしかし、英知の結晶である図書の収集管理という伝統的役割の遂行に汲々としていては、知識社会である21世紀の大学図書館としては不十分である。集めた英知の活用を積極的に促進していく図書館経営が求められる今、SBWを軸とする図書館の取り組みは高く評価されるべきである。

 

大学における知識創造支援の中核である図書館に比べれば、CETLは隙間産業のベンチャー企業のようなものである。まさにライオンとネズミである。CETLは図書館も含め、学生の学習支援に関係する教務部、学生部、キャリアセンターなど伝統的な学内組織間の隙間を埋めて、大学全体としての教育力向上を進める役割を負っている。たとえば、数年前からCETLが主催するFDフォーラムでは、図書館と共催して図書館データベース活用講習会を教員向けに開いてきた。これには、教員が図書館という知的資源の活用に積極的になれば、その教員に指導される学生もまた、図書館活用能力を高めるだろうという期待が込められていた。図書館独自の講習会では、集まる教員は限られてしまう。全学的FDの一環として開催すれば、より多くの教員が参加し、その波及効果も大きくなる。

この共催企画に限らず、CETLでは学部指定図書制度や読書力認定制度など、全学的な展開をねらった様々な企画について図書館と意見交換してきた。図書館は大きな予算と多数の職員を持つ、学部教育から独立した学習支援組織である。だからこそ、大学図書館として一貫した選書ポリシーを持ち、SBWのような独自プロジェクトを実施することができる。反面、学部のカリキュラムと連動した学習支援サービスを行う際には、その独自性が学部との距離を生んでしまう。学部教育の基本は授業であり、授業を行う教員の視点に立ったサービスが必要になるが、企画段階から図書館の職員と教員が継続的に関わる機会は稀であった。

一方、CETLは予算規模も小さく、実質的な専属職員もいない。少数のCETL関係教員が、教員の視点から学生の学習支援のための企画を比較的自由に立案・試行している。したがって、大がかりなプロジェクトを継続的に行うことは難しい反面、制度的に未整備な領域について実験的な取り組みを積極的に試みることができる。

特に今年度から、図書館の規模と実績、そしてCETLの機動性・柔軟性を生かした相互協力関係の構築を進めている。具体的には、後期から読書力認定制度を下支えする企画として、SBW参加者を対象にした書評講習会を試行している。感想文から書評文への質的向上を図る講習会のプログラム開発を通じて、各学部が取り組む初年次教育にも有益な知見が得られると考えている。さらにもう一つ、書いて表現する意欲を高め、作文することへの関心を引き出す「作家の時間」と呼ばれるワークショップを始めた。義務的に感想文を書くのではなく、先ずは感想を書いてみたいという気持ちにさせることが大切だと思うからである。

 

このように、「読む」ことを通して大学生としての教養を鍛え深める図書館のSBWと、良質のレポートや卒論に向けたCETLの作文力向上プログラムを繋ぐコラボレーションが、どのような成果を生むか大いに期待している。今回のコラボレーションを機に図書館とCETLとの協力関係がより確かなものになれば、次は、語彙力向上のためにゲーム感覚で漢検の問題づくりを競うイベントを実現したいと考えている。ライオンとネズミが協同して課外での学習支援メニューを豊かにすることは、創価大学の教育力向上に大いに資する違いない。