「私の図書館体験」 ~中国 武漢大学図書館~
小川 誠一(文学部人文学科4年)
私は中国武漢大学へ2004年3月より約一年間語学留学をしていました。
武漢大学は、中国の内陸部、長江と漢水が合流する交通の要所である武漢市に位置します。武漢の街でも風光明媚で有名な珞珈山麓・東湖に面し、広大な面積を誇るこの大学は、100年以上の歴史を持つ中国屈指の総合大学であり、中国全土から将来有望な学究の徒が集まります。学内は緑が豊かで、春は大学中に桜が咲き誇りとても美しいです。しかし、そのような説明ではなく、完全な主観からこの武漢大学を表現するならば次のようになるでしょう。「とにかくでかい!」「自然がきれい!」「夏は虫が大量発生する!」そんな素敵な大学で一年間留学生として過ごすなかで、様々な貴重な体験をすることができました。その中でも印象的だった「図書館体験」を紹介しようと思います。
とはいっても、私は実は2、3回しか武漢大学の図書館に入ったことがありません。何故なら、私たち留学生が住む宿舎は大学の敷地内に建てられているのですが、その宿舎から図書館まではかなり距離があり、歩くと30分くらいかかってしまいます。語学研修生だった私にとって、宿舎と宿舎のすぐそばに建てられている留学生教育学楼との往復だけで、学習の面から言えば事足りたので、わざわざ遠い図書館まで足を運ぶ必要はなかったのです。
しかし、日ごろ我が創価大学の図書館の愛好者である私にとって、中国の大学図書館とはどういうものか、好奇心からのぞいてみたくなるのは当然であったと言えましょう。
日本人の感覚からすると、武漢大学の図書館に入って驚くのはまずなんと言ってもその大きさでしょう。なんと7階建てのでかい立派な建物で、しかも天井がやたら高い。なぜあんなに天井が高いのか。それは中国だから!大陸的スケールの違いを見せつけられる瞬間でした。各階の閲覧室はそれぞれ分野別になっており、一階は社会科学、二階は自然科学…というふうになっていて、わかりやすいです。もちろん各階はパソコン完備で検索もばっちり、さらに7階の閲覧室ではDVDを観ることができ、日本のアニメなんかも置いてあります。
しかし、入館の管理はすごく厳しく、まず、カバンは館内に持ち込みができません。かならず一階のロッカーに預けて、ノート・筆記用具などの必要なものだけ持って入ることが許されます。そして驚くべきことに、各階の閲覧室に入るには、学生証と利用者カードの提示が必要で、それと引き換えに座席のナンバープレートをもらい、指定された席につかなければならないのです。
私も、その利用者カードを作ろうと思ったのですが、手続きが想像よりもかなり面倒だったうえ、自分用のロッカーを借りるのに200元の敷金!が必要だったので、断念してしまいました。
そのような武漢大の図書館で私が何よりも印象的だったのは、学生たちの「勤勉さ」でした。各階の閲覧室はほとんど席がないくらい学生でいっぱいで、みんなたくさん本を広げて一生懸命学習しています。私語もほとんど聞こえません。皆「学ばざるは卑し」という態度で勉学に励んでいました。
その学業に対する必死さは、大学時代をモラトリアムなものと考えがちだった日本人の私にとってはとても刺激的でした。
中国の大学は全寮制で、十人部屋で個人のスペースはベッドだけ、という環境が当たり前なので、集中して勉強するには図書館の存在が必要不可欠なのでしょう。私は留学生としてかなり恵まれた環境を与えられていましたが、それは学問を究めるにあたっては関係ないどころかむしろハンデであるかもしれないと感じました。図書館を見学してから、私の日々の学習に対する意識は少しかもしれないけど確実に変化しました。
図書館は読書をしたり、読書するための本を借りる場所ですが、中国語で読書(du shu)というと、勉強する、学校で学ぶという意味があります。「私は学生です」と言うとき、動詞である読書の後に「的」を付けて名詞化し、「我是読書的」(wo
shi dushu de)と言うことがあります。「読書とは学習することであること」を教えてくれています。まさに武漢大学の図書館は読書の中心地だ!と思いました。
中国での様々な経験は私に強烈な印象を残しました。この図書館での体験も含めて、それらの体験は私のこれからの人生に常に影響を与え続けていくだろうと思います。