感想を書くことで得られるものとは何だろう
山口 喜一郎(図書館事務室)
全学読書運動「Soka Book Wave」がこの9月に幕を閉じた。図書館サイドから観た本年度の印象をエントリー者数と感想カード提出枚数の角度で記したい。
1)エントリー者数は、1806名で全学生の20%であった。前年度に比べ8割増であった。これを学年別に見ると1年次生が最も高く、当該学生数の48%、2年次生が20%、3年次生が13%、4年次生が5%の参加率であった。学年次が1年上がるごとに参加率がほぼ半減していることは残念である。学部4年次生以外(※就活のためという事情を踏まえ)の半減理由が、真面目に勉強をすることや読書をすることを基盤としない学生生活の送り方にその原因があるとするならば、事態はけっこう深刻だと思う。“学生時代はモラトリアムだ(でありたい)”、と考える学生が主流だったり、何気なくざわついた日々・友人との交流の日々が学生時代そのものであると思っているのだろうか。現代世界(社会)は、グローバル化に伴い、かつてとは全く異なってしまった。であるにもかかわらず、創価大学内は時間が止まってしまったかのように見えることがある。それは、つまりこういうことである。友情や信義などを重んじる良き伝統が継承されていることで、素直でジェントリーな学生が多いように見えるが、その反面、実社会では能力やスキルが絶対に必要、との考え方が支配的になりつつある他の大学の価値観が流入していないように見えるからだろう。良い価値観は本学の善の伝統だから絶対残したい、しかし、それと同時にパワーアップ、スキルアップはいかなる時代、いかなる場所にあろうと必要なため、身に付けようという新たな価値観・文化が育つように皆で働きかけをしたいと思う。Soka Book Waveはそれを目的としていることを忘れてはならない。読書をするということは、自分を育て、人生観・社会観を身に付けるとともに、様々な能力の基本を養うからである。
2)エントリー者数の21%にあたる386名が感想カードを提出したが、昨年度は340名が感想カードを提出していることを考えると、実際の比率はあまり変化していないことを意味している。エントリー者数は、期間が長かったことや開催時期が学生生活スケジュールにマッチしていたため、昨年のほぼ2倍となったが、感想カード提出者人数がふるわなかったことは、当初の予想を裏切った。提出しなかった学生が本を読まなかったわけではないと思う。本を読んだが、感想を書かなかった、書く理由がわからなかった、あるいは、書くのが面倒だった等々の理由によると思われる。感想を書くことはハードルが高いと感じている学生が多いことをこの数値は示している。しかし、果たしてそれでよいのだろうか。それは「考える」という学生の本分を怠っているのに等しいのでないか。これ以上あれこれ書くのはやめよう。年長者として私自身の後悔を記すことにより、感想を書くことの意義を訴えたい。それは、これまで私は数千冊の本を読んできたが、感想や気に入った箇所を書き残すという習慣を持たなかった。若い時の自分、子供が生まれた頃の自分がどのような心境で本を読んだか、それを書き記しておけばどれほど人生が豊かになったかと悔いている。最近はなるべく本の感想を書きとどめたり、気にいったページはコピーを取ったりするようになったおかげで、何かの折の便利な引き出しになっている。この私の感覚に近いのが、図書券を受け取った学生の声にも表れている。
・「自分が本を読んだという証拠が残って嬉しいです」(1年 女子学生)
・「読了した本の記録をつけるのは良いことだと思いました。自信にもなるし、また、なつかしさも出てくるからです」(1年 男子学生)
以上、耳に痛いことを書かせてもらったが、Soka Book Waveが進展していない、と言うつもりはない。何故なら、その挑戦者である学生から寄せられた声は、極めて意欲的であり、“読書を一生の伴侶としていきたい”、“自信が出てきた”など希望に満ちたものばかりであったからである。図書館は、今後も更に読書を青春時代の基本とする学生を支援していきたい。