私の中の「トットちゃん」

 

福島 光子(図書館職員)

 

私は、少し本が苦手だ。

図書館で働き始めて7年、毎日、何百冊をいう本が私の前を通り過ぎる。その途中、ふと手にとってページをめくる事はあっても、すぐに閉じてしまう。

決して、読書が嫌いなわけではない。本を読み始めると、時間も忘れて読みふけってしまうことを自分で知っているからだ。

今、改めて、「読書」という単語と向き合ってみると、私にとっての「読書」って、と考え込んでしまった。しかし、記憶をたどっていくと、私にも読書に没頭した時期があったことを思い出した。

 

それは、小学校の1・2年生の時。私は風邪で学校を休んでいた。何もすることがなく、さして、眠くもない。私は、ぼーっと、家の窓から外を眺め、空や木や車を見ていた。普段は学校に行っていて見ることのない景色にキョロキョロしていたのだろうか。ベランダで洗濯物を干していた隣のおばさんと目があった。

おばさんの方は前から私に気が付いていたのかもしれない。目が合うやいなや、いきなり、「ちょっと待って」と言い、そのまま部屋の中へ入ってしまった。

数分後、家のピンポンがなり、出てみるとさっきのおばさんが立っていた。おばさんは、「あなたを見ていたら、トットちゃんを思い出して」と言い、『窓ぎわのトットちゃん』を渡してくれた。

「私をみていたらトットちゃんを思い出した?」その言葉に引き寄せられるようにベットに戻った私は、その本を読み始めた。

 

トットちゃんは小学1年生。あまりにも活発すぎたために小学校を退学になり、新しい学校へ。そこで生まれてはじめて最後までちゃんと話を聞いてくれる大人、校長の小林先生に出会う。トットちゃんが小林先生のことをどれほど好きだったか、友だちのことをどれほど思っていたか、ストレートに伝わってきて、とても心のこもった一冊で、感動した。

 

この出来事をきっかけに、私はたくさんの本を読むようになった。学校の図書館に行っては本をたくさん借り、特に夏休みや冬休みは「何冊読む」と決めて挑戦もした。しかし、いつしか、高校、大学、社会人と大人になるにつれ、忙しさを理由になかなか読書することができなくなっている自分がいた。ひょっとしたら、今の自分は、『窓ぎわのトットちゃん』に描かれている大多数の「大人」の一人になってしまったのかも知れない。

 

これからの私は「大人」としての時間が長いのだから、トットちゃんにとっての小林先生のような大人になる為に、良書をたくさん読んでいこうと思う。先ずは、今年の「読書の秋」に勝利しよう!