検索システムに12の新機能!!― 新検索システムと資料調達システム開発の背景
山口 喜一郎(中央図書館サービス課長)
本年1月に引き続き、この4月には蔵書検索システム及び学外図書館への文献複写依頼等の資料調達システム(以下、
「資料調達システム」という。)を大幅にヴァージョンアップした。
両システムの必要性と背景
1) 学内では現在、読書意欲、学習意欲及び研究意欲が、著しく高まってきており、図書館はそれに応えるための検索シ
ステム及び資料調達システムとして、学生、教員の皆さんにとって、いかに効率的に、スピーディーに、しかもわか
りやすく必要資料へのナビゲートができるかに焦点を絞った。必要資料への入手に至る道筋の整備、また、学外サイ
へのエントランスとしても適切なものを表示した。その意味で、この検索システムは資料調達のためのポータルサイ
トといって差し支えないと考える。なお、この検索システムに慣れ親しんでもらいたいために愛称をSeason
(Soka Education Academic Search Online Network)と名付けた。この図書館で四季折々に学習や読書をして
いただきたいとの願いを込めた。
2) ヴァージョンアップのコンセプトは、“効果的、統合的、一元的、”システムでなければならないとした。“効果的”
とは、検索画面からの必要な資料への予約申請、閉架資料への出庫申請機能、個人利用照会機能及び資料配置MAPの
表示など、利用者にとって便利な機能はできるだけ盛り込んだ。“統合的”とは、学外図書館への流用検索、図書購入依
頼、また学外からの資料調達システムなど異なったデータベース、サービスを基本検索システムの中に据えることで、
利用者の資料入手のプロセスに沿ったものとした。“一元的”とは、基本検索に電子ブックや電子ジャーナルの検索を可
能にするなど、利用者が資料媒体を意識せずに検索できる仕組みとした。
上記のコンセプトをもとに開発したシステムの個々の機能とその効果
1) ハングル、東洋諸言語、非ローマ字言語などの多言語表示
これまでのコンピュータでは編集・表示が不可能だった多言語を、OS(オペレーション・システム)とデータベー
スシステムを更新することにより可能にした。多言語対応は、今回の蔵書検索システムを刷新する大きな契機であった。
多言語対応の目的の第一は、当館は現在、国立情報学研究所の全国大学図書館総合目録システムに参加し、書誌デー
タをオンラインで送受信しているが、当の国立情報学研究所が本年末に多言語対応の目録システムのみを取り扱うこ
とになることへの措置、もう一つは、長い間ハングルや東洋諸言語の資料をコンピュータシステムに登録できなかっ
たため未所蔵に等しかっが、それを解決するハード、ソフトが出揃ったため、念願の書誌登録作業を開始することが
可能になったことである。
2) 電子ブック・ジャーナルへのリンク機能
他の大学図書館では、電子ブック・ジャーナルの検索は、いわゆる紙資料としての図書や雑誌の検索とはまったく別
の検索画面を用意している。電子ブックは通常「リンク集」の中に位置付けている図書館が多い。また、電子ジャー
ナルは、誌名一覧や分野指定をしてURLにリンクさせるようにしているのが一般的である。しかし、利用する側に
立てば、このような仕組みでは満足がいくものではない。利用したい資料は本質的には資料媒体など関係がなく、基
本的な検索システムの中に位置付けることこそ利用者のニーズに沿ったものであると判断した。そうした視点に立ち、
当館では、基本検索で、例えタイトル枠に必要な誌名を入力して検索をすれば、次画面では、[EB]は電子ブックを、
[EJ]は電子ジャーナルと分かり、当該のURLへと導く流れになっている。4月現在、電子ブックは約1万冊
(政府や自治体の統計、白書や各サイトの電子ブック、また、大学の貴重図書など)、電子ジャーナルは約4千タイト
ルを基本検索システムに対応したデータベースに組み込んだ。他人のフンドシで相撲を取る格好ではあるが、今後、
積極的、かつ、継続的にタイトルを増やす作業に入っていくことにしている。
3) 著者・書名・出版社・件名索引検索を個々の検索項目の補助機能として位置付けた
他大学ではいわゆる資料検索とは切り離したものとして索引語検索システムを運用させているが、そもそも索引語検
索そのものの概念が利用者には分かりづらく、当館では、これを著者、書名、出版社、件名を特定するための補助機
能として位置付けた。著者でいえば、“姓”だけは知っているが“名”を知らない場合、例えば、“加藤”と入力し、索引ボ
ンを押した後、一覧を目でおっていくことにより、“加藤九祚”を特定できたりするようにした。また、書名は、通常
の書名の他、副書名、シリーズ名、各巻書名などの集合体のため、検索結果は分かりづらいものになるが、それを解
消する手段が本機能である。例えば、「イタリア紀行」を索引機能を使わずに検索すると、「ゲーテ全集」の第11巻
に隠れてしまうため、特定しにくいが、本機能を使うと、その他の「イタリア紀行」と共に一覧で表示され、そこか
ら検索につなげることができる。
4) 論文作成支援システムとしての「ピックアップ」機能
卒業論文や修士論文を作成するにあたり、必読すべき資料のメモ機能が「ピックアップ」である。検索結果一覧画面
で目当ての資料の先頭にチェックマークを入れ、「ピックアップ」ボタンを押し、次画面で自分宛てにEメール送信す
るか、または、ディスク保存ができるようになっている。また、論文作成のための必読資料は複数の異なった書名で
検索しなければならない場合が多いが、その場合は、検索の都度「ピックアップ追加」ボタンを押しながら、蓄積し
た上、最後にEメール送信またはディスク保存をすればよい。
5) 「ブックコンテンツ」を検索で特定した図書の内容確認機能
東京大学情報基盤センターの許諾を受け、「ブックコンテンツ」を検索結果詳細画面で照会できるようにした。これに
より学術図書の帯情報や目次情報を知ることができ利用者にとっては利便性が高まった。ブックコンテンツは本来帯
情報、目次情報の検索システムのため、検索結果詳細画面の同一画面に「ホームページ」の表示を行うとともに基本
検索画面右側の「他のサイトで検索する」にもアクセスポイントを設けた。
6) 資料の所在を確認できる「MAP」表示及び「状況表示」を厳密にした
検索結果詳細画面で目当ての資料がどこにあるかを、JPEGで作成した書架の配置図「MAP」で示すようにした。
当館の資料の配置は、様々な区分により現在約80種類に分けて配置されているため、利用者が目当ての資料の位置を
確認することは難しい場合がある。そのため、今回のヴァージョンアップでは「MAP」表示を不可欠な機能とした。
当初の計画では更に厳密な位置やJAVA等による効果的な表示をしたかったが、これについては今後の課題とした
い。また、「状況表示」であるが、目当ての資料が検索時点でどのような状態にあるかをかなり厳密に表示するように
した。例えば、単なる「貸出可」状況だけではなく、当日返却された図書の場合は、「貸出可(当日返却分)」、あるい
は、新着図書コーナーにある場合は、(新着コーナー)と表示するようにした。
7) 予約申請・短大貸出依頼・閉架資料出庫申請をWebから手続きできるようにした
申請用紙に記入する方式を長年とってきたが、今回のヴァージョンアップでは利用者のを考えWeb申請ができる仕
組みを不可欠なものとした。しかし、システム化するにあたり様々な課題に行き当たった。ユーザー認証に際しては、
パソコンを立ち上げるためのユーザーネーム、パスワードが一番適切であることは間違いないもののOSの相性に
わないためそれを実現できず、やむをえず履修登録用のそれによる方式とした。また、個人情報保護のための暗号化
通信(SSL通信)をかませるのにかなり手間取った。予約申請については、どのレベルまで可能とするかをスタッ
フで検討した結果、発注状態のものを視野に入れたが入荷するとは限らないためこれを見送った。ただし、受入・
整理中の図書については予約可とした。予約図書の返却時のレシート打ち出しなどができるようになったため、事務
の省力化対策としてその効果も高くなった。
8) 図書購入依頼を、Webから申請
これまで発注処理などの業務用として利用していたジャパンマークや日販マークを購入依頼のための書誌データベー
スとして利用できるようにした。これについては、著作権元である国会図書館や日本図書館協会、及び日販の許諾を
受けるのにかなりの期間を要した。また、著作権の関係で表示できる書誌フォーマットはショートにならざるを得な
かった。利用者が、本学の所蔵検索をして未所蔵であった場合、シームレスに購入依頼検索及び申請ができるシステ
ムを開発当初からもくろんでいた。基本検索画面で書名などを入力して「購入依頼」ボタンをクリックし、目当ての
資料が表示されていれば「流用入力」ボタンを、表示結果にない場合や異版の場合は、「新規入力」ボタンをクリック
して最終画面で依頼事項を入力できるようにした。このシステムは、これまでの学生希望図書だけでなく、教員推薦
も可能にした。教員の場合は、学生に読むことを薦める立場であり、利用可能になった際に第一優先で借りる権利を
有する必要がない推薦図書については、「優先利用」の指定で、“優先利用しない”とすることをできるようにした。
9) 利用者個人の図書利用状況照会機能(愛称:My Season)
Web申請の確認機能、登録機能として以下のことをできるようにした。
・貸出状況表示:利用者が借りている図書の一覧を確認できるようにすることが利用者の要望として最も高かったた
め、これを可能にした。なお、当事者が照会時点で延滞図書がないこと、及び他の利用者からその図書に予約申請
がかかっていない場合には、継続貸出申請も可能にした。
・予約状況表示:照会した時点で予約順位を表示するようにした。また、予約をキャンセルできるようにもした。
・アラート状況表示:検索結果詳細画面で分類番号の後ろに「アラート登録」のアンカーが表示されるが、この機能
は登録した主題の図書が新着図書として利用可能になった旨をメールで知らせる機能である。利用できるようにな
った図書の内容の確認はここで行う。なお、登録した主題を削除する場合もここで行う。
・購入希望図書状況:依頼した図書の状況(発注準備中、発注中、発注取消、受入整理中、利用可能)の確認ができ
るようにした。
・申込講習会一覧:当館では年間を通じ様々なガイダンスや講習会を実施しつつあるが、講習会申請の後、自分が申
請した日時の確認やキャンセルをここからできるようにした。
10) 全国大学図書館蔵書検索、国会図書館蔵書検索及びYahooへの流用検索
現在、資料検索システムに“横断検索”、または、“並列検索”機能を実現化した大学図書館が数多くある。当館は、
当初“横断検索”機能を検討したが、検索の応答時間が長くかかりすぎるため適切ではないこと、及び、先方の図書館
の検索システムやサーバの変更に伴う当館蔵書検索システムへの影響を懸念した結果これを見送った。ただし、必須の
機能として、全国大学図書館共同目録(WebCAT)、国会図書館(NDL OPAC)及びYahooへの“流用検
索”機能を盛り込むとともに画面の分かりやすさや統合的な検索機能として位置付けることを重視した。今後、レスポン
スの解消や検索エンジンが改良された時点で取り組んでいきたいと思う。また、国際的な情報検索プロトコルでもある
Z39.50を取り入れた横断検索は、世界中の書誌情報を効率的に入手するためにも必要な機能なため、今後着実に
検討を重ねていきたい。
11) 学外サイトへのリンク
利用者の検索の目的は、学内外や資料媒体にかかわらず、資料に辿り着けることにあるといってよい。そのため、
新検索システムでは統合性を重んじ、適切なリンクを画面表示したと思っている。その種類として、「他図書館の
資料を探す」、「図書を幅広く探す」、「書評で探す」、「雑誌論文を探す」、「新聞記事を探す」、「言葉で探す」、「検索
エンジンで探す」、「電子資料一覧」、「他の図書館から調達する」の表示を行い、その下に、現時点でもっとも基本的
な個々のURLへのリンクをはった。
12) 学外図書館への文献複写依頼等の資料調達システム
新検索システムに併せ、学外からの資料調達(文献複写、図書借用、訪問利用)をWebから申請できるようにした。
検索システムとは別プロジェクトで検討を重ねてきたが、スタッフにとってはかなりの負担となった。当初、新検索
システムの中に組み入れようと計画したが、途中で方針を変更した。その理由の最たる要因は、国立大学独立法人化
に伴い、大学図書館総合目録システムの運営中心機関である国立情報学研究所が、いわゆるILL(全国大学図書館
相互協力)の仕組みを大きく見直し、文献複写依頼の際に生ずる料金相殺システムの稼動が始まった点にある。昨秋、
このシステムの説明会が開催されたことにより全国の国公私立大学は、その対応に追われることになった。本学にお
いても、いくつかの制度変更や経理処理方式をせざるを得ず、そのための環境づくりにかなりの期間を要した。資料
調達システムは、新検索システムのデータベース構造に大きく関係することや開発スケジュール、費用を考慮して、
別システムとして運用する方が懸命であると判断した。しかし、“統合性”を重んじるという当初のコンセプトからは逸脱
している感は否めないため、基本検索システムの一機能として位置付けることを今後目指したい。
最後に
以上の機能を羅列してみると、まずまずの出来映えといって良いのではないかと自負するが、当然難点、反省がないわ
けではない。それは例えば、以下のような点である。
・類義語検索、連想検索などを導入したかったが、費用の点でかなえられなかった。
・書誌データの不備が露呈した。当館の書誌データは、国会図書館、国立情報学研究所、日販など複数の機関が作成した
ものを長年に渡 って用いてきたため、フォーマットの統一性を欠いている。例えば、10巻ものの全集があったとし
て、8巻までは全集名が表示されるが、残りの2巻は内容書名が表示されたりする。また、洋書も米国議会図書館やOC
LCのデータを用いているが、使用言語コードの不整合を調整できなかった。そのため「本文の言語」による検索に支障
を来たしている。それらの不整合については今後整えていかなくてはならない。
・画面デザインは、機能面と比較して、あまり満足できる出来映えとはいえない。基本検索のトップ画面だけは配色やフォ
ントなどに気をつかったが、その他の検索システムや一覧画面、詳細画面などは、センスが良いとはいえない。
何年後かにこのシステムを振り返って評価は、“拙い”といわれるかも知れない。しかし、“この検索システムによって、
これまで以上に学習、研究がはかどる”と思っていただければ、現在はそれで良いと考える。学術情報環境やコンピュータ
システムは、更に進展していく。そのためヴァージョンアップを早めなくてはならない状況を迎えることになるだろう。
それに備えて、スタッフの知恵、利用者の方々の貴重な意見、要望を蓄積していかなくてはならないと思わずにいられない。