今日の一書

今日の一書 : 2014年8月27日(水)

『 起こらなかった 世界についての物語 アンビルド・ドローイング 』

著者 : 三浦丈典

タイトルに冠される「アンビルト」という聞き慣れない単語は、英語で綴ると”un-built”、つまり「建てられることのなかった」という意味を表す。今ではCADやコンピューター・グラフィックの普及によってあまり重要視されなくなったが、1980年代以前には、建築家の多くはプロジェクトに取りかかる段階でハンド・ドローイングに取り組のだ。ここで紹介されるドローイングの数々は、描かれたものの現実に建てられることのなかったものばかり。その理由には、予算不足であったり、コンペに落選したアイデアであったり、様々な事情がるが、中には、ルドルフ・シュタイナーが「かつて地球は巨大な獣であった」ということを説明した際の黒板絵であったり、一つも現実の建築物を遺していないスーパースタジオというグループによる奇想天外な都市計画イメージであったり、アメリカ建築界の巨匠、スタンリー・タイガーマンが描いた絵本の1ページだったりと、建築を前提にしていないものも多く含まれている。
この本が素晴らしいのは、それらのドローイングひとつひとつに、インスピレーションやイメージの広がりを受け、著者が添えた文章が、建築に関する理論や技法を説いたものではなく、まるで優れた文学作品に対する書評のように読めるところだ。

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