『 ナポレオン 』

著者 ： Arnaud Le Peletier D’Aunay

旅の多い人生のお陰で、私はさまざまな歴史に出会い、さまざまな場所を訪れ、感動を覚え、さまざまな場面を楽しむことができた。そしてしばしば、それらを絵と文で表現してきた。
本書では、ナポレオンというひとりの男の人生と苦悩の、いわば塵のような部分に焦点を合わせようと考えた。そこには歴史の歩み、戦争の痕跡、愛の足跡として残らずに忘れ去られたものがある。そのような歴史の塵を、彼が土を踏んだ島々というテーマを通して引き出してみたいと思ったのである。
そこで、皇帝ゆかりの島々をさがし出し、それら島から島への道のりに注目した。やっとの思いで取り戻した過去の記憶の多声音楽に浸りながら、ただひとりの人間が辿ったために魅力的となったその地に近づいてみると、それまで孤立していた島々が、しまいに１本の糸で繋がっていることを知った。その糸を道しるべに、私は旅する絵描きの視線で、ナポレオンの叙事詩から漂ってくる不思議な詩情を覆うヴェールをはがしてみようと試みたのである。（あとがきより）