今日の一書 : 2017年12月1日(金)
『 天平の甍 』
著者 : 井上靖
時は聖武天皇の天平四年、奈良時代最盛期の732年、無名の若い僧四人が遣唐使と共に留学僧として唐へと旅立った。仏教が日本に伝来して以来180年余。当時、僧尼の堕落が激しく、その放埓な振る舞いに為政者たちは頭を悩ましていた。それを改め、正しい戒律を整えるために唐の優れた僧を日本に迎え入れるという使命を帯びての渡航だった。死んだほうがましだと思うような航海の果てに唐に辿り着き、更に10年の歳月を経て唐の高僧、鑑真と出会う。
しかし帰国の航海も困難を極め、やっと成功した三度目の渡航でも多くの遭難者をだし、日本へ持ち帰るはずだった数多くの経典も海の藻屑と消えていったのであった…
命がけで唐へ渡った僧たちの壮絶な物語が多くの人たちの胸を打った歴史小説の傑作。流麗な筆致で物語の中へぐいぐい引き込んでいく。
史実を語る資料の決して多くない天平の時代を、これだけ鮮やかに描きあげる筆力はただ賞賛の一言につきる。