今日の一書 : 2019年7月8日(月)
『 限界病院 』
著者 : 久間十義
現在の地方行政システムは、高度成長期に定められたものをそのまま使っているところが多い。右肩上がりの景気の良かった時代を忘れられず「あの時よ、もう一度」と夢見ているうちに、取り返しのつかない状況に追い込まれてしまう。
記憶している人も多いだろう。2007年、北海道、夕張市が深刻な財政難から事実上の財政破綻となり、財政再建団体に指定された。同時に、夕張市立総合病院も民間の経営する病院であれば倒産している状態となり、公設民営化された。NHKスペシャル「夕張 破綻が住民を直撃する」では退院を迫られる高齢者の姿を追っていた。市民の地域医療を担っていた総合病院の再生は難渋を極める。
『限界病院』はその夕張市を彷彿とさせる、政治と医療のせめぎ合いを描いた小説である。医療現場の現実を、病院経営という切り口で語っていく。「病気を治す」という医師の職業理念だけでは解決できない病院経営の難しさを読者に突き付ける意欲的な長編だ。
人の命を預かる病院の危機は、いまの日本のあちこちで起こっている現実だ。人口減少著しい地方の総合病院だけではない。産科、小児科の減少や高齢化による医療費の増加など、日本が直面している問題は山積している。
地方医療崩壊の危機に警鐘をならす傑作長編である。