「行動経済学では、人間の意思決定には、合理的な意思決定から系統的に逸脱する傾向、すなわちバイアスが存在すると想定している。そのため、同じ情報であっても、その表現の仕方次第で私たちの意思決定が違ってくることが知られている。医療者がそうした患者の意思決定のバイアスを知っていたならば、患者により合理的な意思決定をうまくさせることができるようになる」本書の「はじめに」の一節である。医療現場での意思決定においては、命を救うだけではなく、その後の生活の質に関しても考える必要があり、患者やご家族皆が異なる価値観をもつ中でのベストは対象によって様々だ。しかし医療者は、命を救うことに関しての最善を知っているわけだから、それに基づいた意思決定支援ができるようにしなければならないと私は思う。この一節を読み、そのような意思決定支援の実践のために、行動経済学を学ぶことは有用だと考えた。 私が目指す看護師という職業は、実際に治療方針を決めることはない。しかし、患者が意思決定をする際、看護師からも選択肢のメリット・デメリットを説明するなどの支援を行う。意思決定をした後においてもいつでも選択は変えることができることを伝えたり、どのような選択をしたとしても全力で必要な看護を行ったりすると今まで学んできた。それに加えて、人は「将来」の自分の利得よりも「現在」の自分の利得を常に重視していることを理解したうえで、長期的な目標を患者とともに立て、それを踏まえて短期的な選択の意味を考えた意思決定ができるよう支援することがよい意思決定支援なのではないかと本書を読んで学ぶことができた。 命の現場においても、合理的な決断が必ずしも功を奏すとは限らない。合理的な意思決定ができなくとも、医療者と患者との溝がなるべくない状態で医療を行うことが重要であり、そのために医療者には患者のもつバイアスを理解しておくことが求められる。私も、患者のよき理解者・支持者となれるようにこれからも行動経済学を学び続けたい。
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