長い序章だった。かつてのトキワ荘よろしくひとつスロウハイツという旧旅館で暮らしている芸術家たち。怒れる脚本家である赤羽環を家主とし、スロウハイツの最年長でありエースである小説家のコウちゃん、料理上手な絵描きのスー、自身の美学を貫く映画監督志望の正義、そしてどこまでも優しい世界で少年誌漫画作りを目指す狩野。5人の過去やスロウハイツでの出来事が淡々と書かれた上巻は、はっきり言うと少し読み応えがない。キャラクターたちが物語の結末に向かってとても緩やかに日常を送り、少しの転機を迎え、それでもいたって普通に生活していく。最後の1文までは。それは大きな衝撃と、何かが始まる高揚感と胸騒ぎを感じさせる。興奮が冷めるのも惜しんで、下巻を開いた。
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