本書は、多文化共生社会という目標とその背景について、文字通りのテキストブックとして学べる一冊である。全4部構成になっており、それぞれグローバリゼーション、多文化社会、グローバル社会、多文化共生社会について、多角的な視点を与えてくれる。各チャプターにて、授業で使えるような課題が用意されており、クイズ的なものからグループワークまで、専門知識がなくとも自分の経験から社会を見る目を養える内容になっている。 個人的に興味深かったのは、日本文化の不可視状態を指摘している部分である。日本に暮らしていると、日本文化に浸かりきっている状態のため、何が日本的文化なのかわからなくなってしまう。著者の松尾氏は「日本人であることが、人間であることと同じ意味で語られ、あたかもすべてであり普遍であるかのようにみなされる」と表現している。そのような日本社会で、“外国人”として生きる人たちはどんな思いをしているのか、日本人である私にはもはや想像することしかできない。海外留学していたときでさえ、移民だらけの異国では“外国人”である実感もあまり湧かなかった。しかし、考えないことには理解もできない。本書で学んだ視点から社会や時事問題を見る癖をつけておきたい。
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