本書は、映画や小説などにおける「会話」に焦点を当て、演出家である著者の視点から分析したものである。 ジェンダー論的観点からの男女の言葉の比較や一人ゼリフの効果など様々な角度から日本語の会話について述べられているが、私は特に方言についての章が興味深いと感じた。「方言では文章を書けない」という指摘があったが、最初はどういうことか分からなかった。しかし読み進めていくうちに、方言で書かれた文章は全て「括弧」で括られる会話や口頭で語られるものであり、地の文は方言では書き表せないということが分かり深く納得することができた。「誰かが話したこと」を前提としている点で、物語における語り手の存在について改めて考えを巡らせることができたように思う。また、方言で脚本が書かれた作品は、脚本家がその方言の話者でないことも多いといい(広島弁の「仁義なき戦い」等)、自分が意のままに使いこなしていない言葉であるにもかかわらず、多くの人が目にする作品を作る脚本家の苦労が偲ばれた。 総じて、本書を通して、口頭でのコミュニケーションを文字として読んでみることで、方言然りジェンダー論然り、話したり聞いたりしているだけでは意識されない点にも意識を向けることができることに気づいた。
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